地域の高齢者と共に育んだ居場所づくりのこれから

長野県富士見町。近年この町へ移住する方も増えています。
自然を活かしたアウトドア関連のお仕事をする方や、古民家を改修する等して、カフェなどの店舗を営んでいる方。自然と都会の2拠点で活動するIT関連の方々など様々な方がこの町に定住してきました。
その中で今回取材させて頂いたのは、地域おこし協力隊として4年前に富士見町に移住した久保有美さん。
町社会福祉協議会(以降:社協)とともに地域福祉、主に高齢者福祉の向上につとめ、様々な形で地域の「居場所づくり」に取り組んできました。3年間の中で地域の方と一緒に育んできた居場所づくりと、任期を終えて【つくえラボ】として始めた富士見町でのこれからの活動について伺いました。

きっかけは震災。誰かの為に働いてみたい。

久保さん
「富士見町に来る前は、自身の制作活動を続けながら、都内の美術館などで働くという生活を続けていました。そんな中でもずっとこの生活を続けていくのかな?という葛藤はずっと持ってたんですね。そんな思いを抱えていた時に東日本大震災が起きました。
当初は仕事を辞めて自分の制作活動に時間を費やしたいと考えていましたが、震災を機に、人生で1回くらい誰かの為に、何かを一生懸命できる仕事に就きたい。そう思うようになったのが、そもそものきっかけです。」
久保有美さんプロフィール
東京都生まれ 埼玉県さいたま市育ち
幼少の頃から絵を描くことが好きで高校卒業後デザインを学ぶ。その後デザイナーの仕事に就くも、「もっと自由に作品を作りたい」と現代アートが盛んなイギリスへ留学。
帰国後も制作活動を続けていたが、東日本大震災を機に介護の仕事へ。

介護の仕事に自分が就くなんて考えもしなかった。

震災をきっかけに当時の仕事を退職して、誰かのために働いてみたい。そう考えた久保さんが選んだのは介護職でした。

久保さん
「まさか自分が介護の仕事に就くなんて、考えもしなかったのですが、続けていた美術館の仕事を退職して、ヘルパー2級(現在の介護職員初任者研修)の資格を取得して介護の仕事に就くことになりました。最初は障がい者施設、その後高齢者介護施設などで3年ほど働き、介護福祉士の資格も取得しました。それと同時期に車の免許を取得したのが思えば富士見町に来るいちばんのきっかけだったのかもしれません。さいたまに住んでいると、車の必要性も感じなかったのですが、車の免許を取った途端にどこか行ってみたい!という気持ちになってしまったんです(笑)」

地域おこし協力隊として富士見町へ。

地元であるさいたまを一度出る決心の元、地域おこし協力隊という制度があることを知った久保さんは、その制度が自分にあってるんじゃないか?そう思い、協力隊の募集をしている様々な土地を訪ねたそう。
その中で何故富士見町を選んだのか?を伺いました。

久保さん
「一生そこにいないといけないとか、一生その仕事をやらないといけないという状況だと私は憂鬱になってしまう性格なので(笑)地域おこし協力隊として3年間という期限があるのは良いなって思ったんですね。そこで長野県以外にも協力隊の募集がかかっている色々な地域を訪ねました。それこそ友人からは協力隊荒らしと言われるほど沢山の面接を受けたんですよ(笑)
その中でも富士見町を選んだのは、社協職員とともに高齢者が生き生きと元気に暮らすお手伝いをするという仕事の募集内容と、富士見町の雄大な自然、出会った人がなんとなくゆったりとしていて、それが私に合っていると思ったからです。」

富士見町の社協の一員としての生活の始まり

数ある候補から富士見町を選び、社協の一員としての仕事が始まった久保さん。その3年間の活動は、地域の、主に高齢者の方々にとって、自分自身や地域の方々の大切な居場所として育っていき、今も続いています。その3年間の活動の内容を改めて伺いました。

久保さん
「最初に社協の方々には「久保さんの好きなようにやってくれてよいからね」というお言葉を掛けてもらいました。だけど最初は何からどうしていったらいいのかわからずに悩みました。ただ、社協の一員として地域に出やすいという状況と、個別訪問の機会も仕事として沢山あったので、そんな中で地域の皆さんと直接話がで きたことは大きかったです。面白いお話も沢山聞けましたが、それを通してそれぞれが抱えている問題や課題が分かってきたというのはありました。」

高齢者が生き生きと元気に暮らすお手伝いを

久保さん
「地域の集まりに出ていきたいけど、そういった機会も少ないうえに、様々な理由から出られない方もいる。小さな集落なのに、しばらく顔 を合わせていないというケースもあったので、もっと地域のみんなが気楽に、継続的に集まれる機会を作れたら良いかなと思い、企画をしていきました。それが富士見町に来て一番の仕事だったんですけど、それが今でも続いているという感じですね。
当時、企画したものとしては、皆が気軽に集まれるラジオ体操があるのですが、そういった集まりに来られる方は比較的元気で、社交的な方ですよね。そうでない人達も大切にしないといけない。そこで始めたのが、出られない方のお宅の軒先やお庭へ、お茶やお菓子、椅子やテーブルなどを持ち込み、そこに元気な方たちに来てもらってみんなでお茶のみをする、【出張えんがわ】です。」
※出張えんがわの様子。沢山の方が地域の方との交流を楽しんだ。

出張えんがわがもたらしたそれぞれの暮らしの変化

地域の集まりに出ていきたくても、様々な理由から外出できない人もいる。けれどみんなが家に来てくれるのは構わない。そういった方がいるという事実を知り、久保さんが始めた出張えんがわ。その企画は地域で暮らす方々にとって、どのような場所になっていったのでしょうか?

久保さん
「地域の色々な集まりに行けない人も大勢での集まりが苦手な方も、常に人との会話だったり触れ合いを欲しているし、かといって都会のように、カフェだったり気楽にお茶ができるような場所はこの辺りにはないですよね。特に高齢者の方は車の免許も返納してしまっている人もいるので、遠くへ出るのも難しい。そういった中で一人一人に意見を聞いてみたら、自分は出られなくても人が来るのは全然嫌じゃない。むしろやってほしいという意見が多かったんです。
お茶やお菓子もご自宅の方の負担にならないように、また、参加される方も気を使わずに済むように、立ち寄ってくれた方からお茶代として100円ずつ負担頂いて、私達が用意する形ですね。開催場所も、家の中だと、上がられる方も上がる方も気を使うので、お庭や軒先にしました。どの回も、皆さん1時間以上昔の話や色々な話で盛り上がり、楽しんでました。それからは他の方からも「是非、うちでもやってほしい」という声も上がるくらい、地域の 皆さんの楽しみの一つになったかなと思っています。それまであまり顔を合わせる機会がなかった方たちが、再び顔を合わせてそれぞれ近況報告をすることで、お互いに気に掛けるよ うになり、それが自然に地域の見守りに繋がったのはよかったです。」

高齢者の方々のそれぞれの活躍の場も作りたい

地域の居場所を出張えんがわという形で作った久保さんは、次に「高齢者の方の活躍の場=居場所」として地元の農家の方を講師に招いての畑作部、稲作部や、道の駅に生産 者登録し、地元のお母さんたちが作ったアクリルたわしの販売など、いわゆる「地域活性化」という言葉だけでは事足らない程の様々な活動を地域の中で行いました。

久保さん
「町内には、元々介護予防の為の体操や、レクリエーションが主体のサロンが地域の通い・集いの場所として存在していたのですが、(生き生き=生きがい・やりがい、活躍の場=居場所と考え、)そのような画一的な集いの場で はなく、それぞれが好きなことや得意分野を生かして役割を持ち活躍できる場として、つくえラボの前身となる「落合小サロン」を立ち上げました。その中で、料理や手芸、畑や田んぼの農作業などを通して地域のみんなが主役・先生になれる活動内容を企画・実施してきま した。その一環が森のオフィスにいる若い方にも参加してもらった畑作部だったり、郷土料理を一緒に食べたり地域のみならず、色々な方との関わりがより広がった取り組みになったと思います。
※地元のお母さん達が作った郷土料理の食事会
※畑作部の様子。
久保さん
「そういった活動が、徐々に実を結んで、稲作部ではカゴメ野菜生活ファームさんなど町内に事業所を持つ企業の方たちとご一緒させてもらったり、地域の皆さんが作ったアクリルたわしなどの手芸品は、道の駅での販売をきっかけに販路も拡張し、多くのイベントにも出品 させてもらったり、活動が外に広がっていきましたね。」
※道の駅やイベントで販売を始めた地域のお母さんが作ったアクリルたわし。
地域の皆と一緒に販売した。
久保さんが3年間で行った企画の一覧。

3年の任期を終えてこれからの活動について

当初、富士見町に来たときには地域おこし協力隊として3年という期限の中での活動をしてきた久保さん。その任期を終えて、現在ではつくえラボという団体を立ち上げて、富士見町に残り、今までの取り組みをより広げていくための活動をされています。任期を終えて、別の地域、もしくは地元に帰るという選択肢もある中でどういった気持ちの変化があったのでしょう?

久保さん
「この3年間は本当に楽しくて、地域の方と一緒に色々なアイディアを形にしていく という面白さは、自分が続けてきた芸術活動にもとても似ているなと思いました。また地元にいては、決してできない活動だったと思います。最初は3年のつもりだったんですけど、今までやってきた事が、まだまだ成し遂げられていない事がとても多いなと思って、これまでの活動を継続し、自分なりに、より活動内容の幅を広げていくために、【つくえラボ】 という団体を立ち上げました。
ここの古民家もその為の新たな拠点として、地元の方から借りて今まさに改装中です。この場所は、事務局としての場所だけではなく、出張えんがわや落合小サロンの延長として、誰もが過ごせるみんなの居場所、交流の機会を提供する地域の窓口として使っていきたいと思っています。
この改修も地元の方が手伝ってくれています。地域の方にとって、自分自身が少しでも 作業に関わることで、来やすい場所になってくれれば嬉しいですね。
3年の任期の中で、色々な地域に視察に行き見てきた地域活性化の成功例といわれているような所は、まずは小さな地域の中の人達がこうしたいという自分たちの思いがあって、 みんなでアイディアを出しながら足りないことを少しずつ形にしていく。そこに何か面白そうと外からも人が集まってきて様々なことに派生し、一緒に盛り上がっていく、というよう な感じがほとんどでした。
富士見町に来た時から考えていたことですが、まずはこの集落の中で、「こんなところにこんな楽しそうな場所がある!」といわれるようなモデルケースをひとつでも作って、それが別の地域や集落にも広がっていったらいいなと思っています。他の町ではなく、この富士見町内で、自分たちの活動場所もその都度移動していくのも面白いかもしれません。」
今回は【つくえラボ】を立ち上げた久保有美さんにお話を伺いました。
地域密着という言葉がありますが、まさに久保さんの3年間の活動はそういった言葉が薄く感じてしまうほど、まさに地域の方1人1人と密接に関わってきて、それぞれが求める場所や時間を皆さんと作り上げてきた3年間だったのだなとお話を伺って感じました。

取材の場所でもあった、つくらラボの新しい拠点。
こちらの場所は地域の方々の交流拠点だけではなく、勿論都内を始めとした様々な方にも訪れてほしいとの事。空き家を使ったその地域ならではの新たなモデルケースになるのではないでしょうか?
久保さん率いる「つくえラボ」の活動、ぜひ皆様も注目して下さい。
そして、富士見町に興味を持たれた方は是非つくえラボを始めとして、富士見町に訪れてみては如何でしょうか?

つくえラボフェイスブックページ
https://www.facebook.com/tukuelab/

長野県富士見町地域おこし協力隊募集ページ
https://www.town.fujimi.lg.jp/page/kyouryokutaibosyu.html
富士見町では積極的に移住したい方のサポートをしております。 移住に興味のある方、一度訪れてみたい方は是非こちらからお問い合わせ下さい。

富士見町役場 総務課 企画統計係
TEL:0266-62-9332
Email:kikakutoukei@town.fujimi.lg.jp

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